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木 ー幸田 文ー

ごくまれに自分のこれからの人生を左右する
「もの」との出会いがある。
それは突拍子もないような派手な豹柄のミュールだったり
トライしたこともない微妙な色目具合の着物だったり
5年後の自分ならこっちを選んでいるだろうよ、と一人ごちながら買った
錦鯉もようの朱塗りの椀であったりする。
これらはことごとく
今の自分とはすこしちぐはぐな感じがしていて
若干財布を取り出す事を躊躇するものの
必ず「こちらは正しい」という予感がするのものだ。
そしてことごとくあやまたず、彼らは
自分の行きたい(生きたい)ベクトルを暗にしめしてくれる。

そして今日、図らずも一冊の本に出会った。
文学系出身の癖に本嫌いだと気づいたのは大学も4年にさしかかった頃で
オノレの勘の悪さに嫌気がさすくらいなのに
この本は決定的だった。

象牙色のカバーはさりげなくエンボス加工されていて
ようく見るとその凹凸はどうやら一本の木の幹らしい。
大きな杉かヒノキの、根元のあたり。
新潮社からでている幸田文の「木」という書物。
'70〜'80年代にかけてつづられたエッセイで
木にまつわる逸話をときには幼少時の思い出として
ときにはドキュメンタリーとして、なまなましくその生命を書き尽くした
素晴らしい一冊。
その描写の妙に涙がでそうになる(のは多分私だけ)。

こころみにカバーをはずしてみると
その下は(恐らく)杉模様をした布を施している。
なんとも心憎い装丁に「おばあちゃんになるまで絶対に本棚に飾る」と
胸に誓った。

http://www.wood.co.jp/bk/bk-z/zbk-074.htm

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コメント 3

max

こんばんは(*^○^)
>『微妙な色目具合の着物』   って魅力溢れていますよね。
私の母が若い頃に着物教室へ行ってたので私自身も着物をよく見ていまして、私独特の視点で、その着物を作った人の本当に訴えたい心の窓を柄から読む癖があります。  友達の女の子とか着物買う時に付き合ってあげ私が決めた物もあるくらいにうんちくな男です(笑。 着物ってその人の心が表現されやすいので、その着物を見た瞬間に一つの物語が作成されます。 でも大したこと無い物語なのですが(笑) その人の心理が描写された着物は時に面白いものです。

そういった良き本に出逢えるのはさすがtrikoさんですね。かなり渋い表紙ですね。 わたくしじゃ、そんな大それた内容書物はほど遠い性分なので目が回る~彡
by max (2010-11-21 23:05) 

triko

maxさん、いつもコメントありがとうございます。
お着物お好きでいらしたのですね?!
しかも着物を作った人の意趣まで読む癖がおありだなんて。
さすがです…。
お洋風もお着物もわざわざテーマをもって
こだわって着ているだけで、敏感になる気がします。
あ、よかったら私の裏ブログも見て下さい。
http://okimononanoyo.blog.so-net.ne.jp/
古い(戦前の)着物の写真などもたまに載せてます。
更新が滞りがちですが…。

幸田文の本は読みやすくて、理科的なことを文学的アプローチで
考えられる素敵な本です。
きっとmaxさんもお好きな内容だと勘案します…。
by triko (2010-11-22 12:59) 

max

 着物Blogも既にtrikoさんと出逢った時点で全て拝見致しております。
しかし、専門Blogのようになっているので、到底私がコメント出来るような立場ではありませんし、もし仮にniceやコメの足跡を付けたならば、その着物Blogから多分皆逃げて行ってしまうかもしれません(大笑) こんな霊だの神だの動物の愛だのという人と交流を持っているのかってね(笑) よって差し控えております。
 私の母は、着物着付け上級講師?っていう感じの京都ハグビの免許を持っていますが、tirikoさんまでのような繊細さには全然及ばずに至れないと思います。 母の免許ってお金を出せば誰でも取得出来るのかもしれません(笑)
 trikoさんは、この本のデザインもそうですが、着物もとにかく渋めがお好きですよね。 それだけ文学の道を意識して渡り歩いて来た影響が大きいとも感じます。
 その着物Blogの写真から、一つの着物からは『格式高い上品な心を持った母親の愛』と、もうひとつの着物からは『厳格で躾に厳しさを持った母の姿』が、それぞれ二つの着物から想定され・・ここから物語が出来上がるのです(笑)  そんな素敵な着物写真を披露されてありがとうございます。
 ちなみに私は本を読むのが昔から大の苦手で、私が過去読んだ本は『向上心』『血族』上下巻のたったの2冊だけです(あはは) だからいつまで経っても私の言葉からは賢さが生まれてきません。
 そんな素敵で内容まで渋そうな考えさせられる本は、私は本当に目が回ってしまうので無理です(^ω^;)
by max (2010-11-22 20:46) 

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